経験則として感じること

白状すると、シングルバトルが強い人が、いちばんにポケモンが上手いと思っていました。

 

やっぱり「ダブルは過疎」、「シングルがいちばん競技人口が多い」というのも大きかったのですけれど、ぼくはその一般論(?)の立場から少し異なった考え方もしていて、ダブルバトルは「情報の鮮度」があれば著しいアドバンテージを残せるから、考察量ですべてが決まるゲームだと思っていたのですね。

 

ぼくにはこんな経験があります。

 

6世代の終わりのころ、ジョウトオープン(追記:シンオウダービーでした)という大会がありました。そのことはもう忘れかけているのですけれど、ひとつだけ覚えていることがらがありまして、ぼくはサーナイト/ハッサム/バクフーンという並びを使っていたのですね。ことのあらましはこうです。1ターン目にラティオスが出てくることが圧倒的に多いから、「こだわりスカーフハッサムで「とんぼがえり」を打って、サーナイトで「トリックルーム」を決める。そうしたら、バクフーンで「ふんか」を決めて、そのままイージーウィンです。ぼくはこの戦法の異常な強さに早くから気づいていて、一発勝負のレールに乗せました。その結果、余裕しゃくしゃくで1ページ目(たしか、そうだった)に入れたのですね。

 

シングルでもそういうシーンはありましたけれど、インターネット大会が主だったり、100戦ていどでレーティングバトルの上位を狙えるダブルって、ほんとうにこういうことが多かったんです。その鮮度をコミュニティの力で維持できる(情報閉鎖)ともなれば、やはり考えたら勝ちではないのか。考察のおこぼれをもらったら勝ちではないのか。

 

8世代を迎えたいま、逆立ちしてもそんなこと思いません。というより、シングル/ダブルで分かつのがナンセンスです。竜王戦を思い出してみてください!垣根を超えた勝負には興奮させられましたし、ポケモンが強い人はポケモンが強いからポケモンが強いのだなあ、と、同語反復せざるを得ませんでしたよね。シングル/ダブルでの分断なんてなかったか、いつの間にか消えていたのです。

 

とくに、何回も1位や2位をとる人は、なにか特別なものを持っていると感じます。これも一般論?内輪で言われていること?ではありますけれど、たとえば二連続まもるしか負けスジがない場合に二連続まもるを読んでリスクのある行動をするとか、そういう「考えるけどやりたくないプレイング」をやってのけるひとであるし、「突飛な思考(「ヤンキープレイ」に近いかもしれません)」を「雑念」と解釈しているように思います。感情的であるかとか、性格のおちつきとかは、あまり関係がないかな。

 

そういうひとは、どういうひとなのか?‥‥という話ですね。ぼくなりの経験則を示すと、冷静に長期間コミットしていられるひと・抽象的な思考が得意なひとというのは、やっぱりオーラがあると思います。オーラがあるって曖昧ですけれど、そういうひとがおしなべて、強くなっていったりするのですね。

 

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まずひとつ、コミットメントの能力。これは、株などで長期投資ができる技術と、共通してはいます。

 

ウォーレン・バフェットという、ほとんど伝説にちかい投資家がいます。バフェットは多くの株を持つことを好みません。少数の株を洗いざらい分析して、腰を据えて運用する‥‥というスタンスをとっているのですね。だから損切りも好みませんし、最終的な勝ちスジを信じられる限り、株価の下落は買い増しのチャンスなのです。

 

その実ぼくは、ポケモン勝負って突き詰めればバフェットの理論にいきつくのではないか?と思うことがあるのです。たとえば、ミゾブチナオト選手と、キムラヒロフミ選手のこの試合。

 

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1戦目の序盤は、ミゾブチ選手がペースをにぎります。メガボーマンダが「ハイパーボイス」をとおして、ゲンシグラードンを着地させます。キムラ選手は消極的な立ち回りをせざるを得ず、ルナアーラの「ナモのみ」や、ぶつり型のゲンシグラードンによるアドバンテージによって、劣勢に追い込まれてしまう。

 

しかし、転機が訪れます。「カプ・レヒレ/メガボーマンダ VS ブラッキー/ゲンシグラードン」という対面になったとき、「ブラッキーの突破やターン稼ぎのために、カプ・レヒレをのこしておきたい」というインセンティブが生じます。キムラ選手は、そのインセンティブを嗅ぎ取ったのですね。カプ・レヒレを無視、「ドラゴンクロー」と「イカサマ」をメガボーマンダに集中して、試合をもぎとりにいきます。

 

メガボーマンダはからくも集中攻撃を耐え切るのですが、あわや逆転というシーンでした。キムラ選手はそのあともルナアーラの「まもる」を考慮したプレイングをして、予断を許しません。

 

けっきょく、ミゾブチ選手のもくろみ通りに「ラブリースターインパクト」でブラッキーを倒す試合になりました。しかしキムラ選手のプレイングは「あそこでメガボーマンダがひんしになっていたら」としか言えないような、 完璧なものでした。序盤の劣勢を強引に修正しなかったからこそ、勝ちスジをつくれたのですね。

 

強いひととの試合というのは、往々にしてこういうことが起こります。ぼくが1ターン目でZワザを通したのに、ガオガエンがくるくると回っているうちに最終的に負けている。その場その場での「勝ち負け」を「最終的な勝利」の物語の一要素として宙吊りにできる能力。これこそがポケモン対戦という投資で要される力であり、またコミットメントの力ではないか。

 

すこし飛躍じみたことを言っちゃいましたけれど、「その場の勝ち負け」を宙吊りにできるひとは、ほんとうにポケモンが強いです。偏差値が70手前から上がらなくても必然的なプラトー(停滞期)だとおもえるタイプのひとですね。

 

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そして、抽象化と具体化の力ですね。これは構築力に直結してる、という印象が強いです。

 

まず、ぼくがすごく気になっていることとして、強いひとは過去作や過去シーズンのパーティ記事を重宝する‥‥という傾向にあるのですね。お話をうかがってみると、メタが回ると過去のリフレインになるから、とおっしゃることが多いのですけれど、これ、ポケモンやもちものの固有名詞とかを捨象して、過去のシステムと類比してるわけです。そこから強かったことがらを密輸入するということですね。

  

そして、答えへの嗅覚の話もあります。 良文と悪文ってありますよね?話のツジツマとか関係なしに、なんだか気持ちのいい文章、ハナにつく文章。ロジックの取り扱いがうまいひとって、それを嗅ぎ取る能力も高いと思うんですね。文章からただよう抽象的な印象(言語化されてない判断)から具体的な充足/欠損を感じる能力です。

 

「ロジックの取り扱いがうまいひと」というのは「考察がうまいひと」にも置き換えられると思います。たとえば新ルールの新環境で試運転で何回か対戦しただけで、なにが強いかを持ち出してくるひとがいるのですね。それはどんなひとでもできますけれど、引き出しを転用するのではなく、いまのいままで誰も思いつかなかったバクダンを未来予知気味に用意してくる。たとえば、「『ドクZ』クロバットが強い」ということを全国大会の半年前から知っていたひとがいたのですけれど、全国大会の環境ってその半年のあいだに変わったんですね。メタが回ったすえの「強さ」も直感的にわかっているのです。

 

過去との類比の話と答えへの嗅覚の話は、分かち難く関連していると思います。参照力と発明力のむすびつきとも解釈することができますし、別のものごとからものごとへの答えを出す能力があれば、具体的な充足/欠損を感じる能力が強まるからです。

 

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なにが言いたかったかというと、ポケモンもちゃんと能力が必要とされるゲームだし、強いひとはそれがあるよなあ、ということです。ついでに言っておくとサン・ムーン後期からその傾向があらわれてきましたから、最高レートが伸びないシーズンだからと言って、低レベルであるということはないと思うのです。飽きてきたのでこの辺で。